| 幸 齢 ネ ッ ト |

この本は「事典」と銘打っていますが必ずしも大部のものではありません。B5版395ページである、といえば「大部」ではないことをお分かりいただけると思います。 しかし、活字は小さく、盛り込まれた内容は豊富であり、編集者の意図したとおり「事典」として完成していると思います。 そして、手軽さから言えばハンドブックとしてすこぶる重宝なものといえます。 監修者である日本老年行動科学会は、高齢者ケアの実践現場と行動科学研究の場をつなぐ「ケアと研究の出会いの場」を目指した学会であると説明されています。 会員はケアワーカー、看護婦、医師、ソーシャルワーカー、行政職、研究者など多岐にわたっているようで、事務局は筑波大学大学院教育研究科井上研究室に置かれているとのことで、同会の会長である井上勝也筑波大学教授が編集代表を努めていることも頷けるところです。 ![]() 通常、「事典」と言えば、学者が権威あるものを目指して執筆しますから、概ね執筆者の構成は学者に偏るところです。しかし、監修した学会の結成趣旨によるのでしょうか、あるいはそうではないのか定かではありませんが、執筆者が学者中心であるということがありません。 この特異性を協調する為に、敢えて執筆者の業種に触れますが、執筆者には保健婦の方、経営コンサルタントの方、老人ホーム施設の責任者、僧職者、大学院院生等、実に多様な構成になっています。 こうなった理由は前書きに経緯が記されていますが、編集者が執筆者を前記の監修者学会の中から公募したという事情があります。 それだけ、高齢者ケアの実践現場と行動科学研究の場をつなぐ「ケアと研究の出会いの場」という監修者学会の理想を重視したものといえるでしょう。 この事典は現代の高齢者問題のメンタルな面を一応全てクリアしているように見えます。 私が高齢者に関する著作を「手にして眺めみて」いつも思うのは、高齢者の性とデジタル・コミユニケーションの観点が無いことです。 これは必ずしも私だけの関心事ではないと思うので、一寸残念な気がします。この事典も残念ながらデジタル・コミユニケーションに関連するものは不足しています。僅かにワープロに関する記述があるだけと言うのはいささか寂しい感じがします。しかし高齢者の性に関しては1章を設けていますので、前述したように「一応全部」網羅しているように思います。 大まかに、この構成をみてみましょう。 この事典は14の章に分かれています。これを掲げましょう。 1 心の加齢 2 知的能力 3 性・セクシュアリテイ 4 生きがい 5 死 6 心の測定 7 心の病 8 痴呆 9 心のケア1−−−−心の理解とその対応 10 心のケア2−−−−心理療法 11 生活活動 12 健康とスポーツ 13 家族 14 社会の中の高齢者 無論、これだけでは内容を紹介しきることはできません。しかし、私のこの本への思い入れは、去年の夏に思いがけずに入院したことによります。 入院経験のある人ならよくお分かりでしょうが、病棟での生活は単調で退屈です。ラジオ、テレビはありますが、そういうものもまたニュースやドキュメント番組を除くと単調です。 こういうときに、私は2冊の本とノート・パソコンで半月の入院生活の単調さを凌ぎました。 その一つがこの事典でした。もう1冊は、大岡 信著「詩の日本語」で、この本からも大きな感銘を受けましたが、現実にネットワーカーとして幸齢ネットを主宰している身としては、この事典から得るところが多かったと言って良いと思います。 例えば、第1章「心の加齢」では、こういうところがあります。 まず、執筆担当者の佐藤真一氏(明治学院大学文学部助教授)は、まず、「老化」の反対概念が「成長」であるとした上で、「老年期の身体の変化を『老化』ととらえることに問題がないのなら、なぜ心の変化に対して「加齢」という言葉を新たに作る必要があったのだろうか」と投げかけています。 そして、その答えは「それは、従来、『老化』や『老い』という言葉で表現されてきた高齢者の実態に何らかの変化があったからと考えるべきであろう。」としています。 私はこの答えの「変化があった」という意味がよく分かりません。それは高齢者の実態に変化があったのではなく、「高齢者の実態の認識に変化があった。」と考えるべきではないかと思うからですが、それはさておいても、今やメンタルな面で「高齢者の老い」に概念の変化がみられると言うことは我が意を得た思いでした。 それだけに、この事典を小説の様に読み続け、遂に、同じ病室の人に「小林さんは読書家だねえ。。」と呆れられるほどでした。 この他にも、下の写真に掲げたように、アンダーラインを沢山引いた項目が随所にありました。 ![]() 「職務再設計」の概念は「それぞれの職務がもつ技術的、組織的必要条件を満たすとともに、その職務を担当する作業者の心理的要因やグループ関係の個人的要求を充足するように、職務内容や作業方法、職務観の関係を明確にし、設計すること」とされています。 これらは「事典」での紹介ですから原典とは違いますが、学者でも実務家でもない高齢者本人である我々には良い示唆になると思います。 こうした事項が都合146項目にわたって展開されているこの「事典」は、各項目の記述の論理的展開とも絡み合って、私には格好な手引書となっています。 |
/「75歳現役社会論」