乾門あたり




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昼の散歩・乾門あたり                                                  11
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      ここから乾門(いぬいもん)前の国立東京近代美術館工芸館までは、皇居を囲
    む常緑樹が溢れている。歩道と車道の境にもツツジや山茶花などが植え込まれて
    いるし、歩道から会館側あるいはこれに続く国立公文書館などとの境にも沢山の
    草木があって、大都会のなかの息苦しさから少し解放される。かといって新鮮な
    空気を胸一杯吸い込むというわけには行かない。なぜなら、車道はひっきりなし
    に乗用車の波が寄せ返し、排気ガスが溢れているからである。
      それでも、春先には特にツツジが華やかに咲き誇るので、散歩には十分目を楽
    しませてくれるところだ。
    
      もっと先に進めば千鳥が淵公園に続く左右が林のような道に入るので、そこな
    らば、車道を離れてすこし高い道にうつり、車の喧騒からも離れた歩きができる
    はであるけれも、今日はそこまで行けそうにない。
    
      道の前方から私と相対するようにこちらに向かってくる一団がある。手に手に
    大きな白い上質の握り手のついた紙袋を下げている。年齢は30代から60代ま
    で幅があるし、男女同じくらいの数。服装は女性は概してスーツが多いが、男性
    は背広を着ているもののホワイトカラーにネクタイという姿の方はあまり見られ
    ない。察するに日本武道館での大会か、何かのアトラクション見物の帰りかと思
    ったが、確かめる為に聞くような性質のものでもない。
    
      その一団をやり過ごして、大きな横断歩道橋の脇を通りすぎると、皇居への北
    からの入口乾門が見えてきた。
      また、30年前の話になってしまうが毎朝夕見馴れた門であり、今も昔と同じ
    ようにここは何か静かなたたずまいである。勿論、車が頻繁に出入りするような
    ことはない。一台の黒い乗用車が門にゆっくり向かっていったが、門の前でちょ
    っと停まり、皇宮警察の警官が車の傍ですこし体を屈めていたが、すぐ上半身を
    起こして敬礼し、車はまたゆっくり黒ずんだ乾門を過ぎていった。その先は白い
    砂利道(に見えたが?)が続き、その両側に色づいた小さな木を時折交えて秋を
    漂わせた木々が行儀良く並んでいた。
                                                                            
      乾門から真っ正面の北側に東京近代美術館工芸館がある。ここは昔の近衛師団
    司令部庁舎で、昭和40年頃までどこか行政機関が使っていたところだ。この奥
    には警察学校が有ったはずだから、警察関係だったかもしれない。この北の丸公
    園に通じさせる関係かと思うが、以前、この東京近代美術館工芸館の建物のほぼ
    真ん前にあって皇居を望んでいた北白川宮能久親王の馬上姿の彫像は、どこにも
    見当たらなかった。そういえば警察学校跡は今は北の丸公園の芝生になっている
    のではなかったのかなと思う。
      当時、東京学徒援護会とか学生援護会とかも近くにあって、夜になると警察学
    校脇に現れた屋台のおでんやで同じ年ぐらいの学生らと顔を合わせることがあっ
    たが、ひょっとすると彼らの何人かもこの近くに家族と現れて、人知れず懐かし
    がっているのかもしれない。
                                              平成4年11月26日( 木) のこと
 



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