須弥壇

 須弥壇を離れて夜空を仰ぐ
 霜月の星座を縫って一筋の光芒が西へ走り  
  追いかけて友の星も飛ぶ

  友よ何を急ぐ
  何故にその光に随うのだ
  その先は虚の世界
  ここが実の世界なのに 
 
   お前は何を悲しむ
   何故に俺を呼び止めるのだ
   俺が行く先は実の世界
   お前の在る所こそ虚の世界なのに

 何を言う 
  お前はまだ五十有餘
  虚実を悟るには若すぎる
  況んや
 愛しき妻子への別れを告げず
 親しき人々への挨拶もなく
 俄の旅立ちとはあまりのことではないか
  語ろう世の虚実を
 ともあれ帰れ
 俺達のもとへ

  何を言う
  俺はもはや五十三
   既にして虚実は悟った
   況んや
  愛しき妻子には深き愛を
  親しき人々へもいつもの笑みを
  これからは永遠に注ぎつづけられる
   既に言葉と肉体が無用となっただけだ
   今こうして
  光芒に随うを喜ぶ

  須弥壇を去って頬を拭う
  霜月の星座は元の如く凍てつき
  いつか友の星も消えた

前ページ